ここ1~2週間は台風が上陸したり、大気が不安定な日々が続きましたね。そんな時の空や雲は、刻々と変化して、思いもかけない美しいアートが出現します。
この前の台風一過の夕方、家を出たときにはどんよりした曇り空、あっという間に夕焼けが現れはじめ、富士山のシルエットが浮かんできました。そして10分ほど歩いているうちに、海の上には燃え立つような茜色の雲、空一面に湧き立ってきました。
幼稚園、小学生の頃、私たちは横浜で暮らしていましたが、夏休みは毎年1週間くらい、鎌倉・小町の、おじいちゃん、おばあちゃんのところへ泊りがけで遊びに行きました。今もイワタコーヒーが当時のままありますが、隣の建物の2階で寝泊まりしていました。
おじちゃんに連れられて、ビーチパラソルと浮輪を担いで由比ヶ浜に泳ぎに行ったり、もう50~60年も前のこと、小町通りは今と違って、とってものんびりしていました。夜になるとお店の前に縁台を出して、浴衣に団扇で夕涼み、バナナアイスを食べながら、近所の人たちが下駄でカランコロンと散歩をしているのを眺めたり、従弟のタケシちゃん・ヒロシちゃんたちと花火をしたり・・・幼い私たちには、夢のように楽しい思い出いっぱいの、夏休みでした。
大阪のギャラリーを訪ねた合間の日に、少し京都観光をしました。今回初めて高雄山(神護寺)・栂尾山(高山寺)・槇尾山(西明寺)の三尾と呼ばれるエリアに行きました。
京都駅からバスで約1時間、栂ノ尾で降り、最初に鳥獣戯画で有名な高山寺へ。白洲正子さんの明恵上人についてのエッセイを読み、なにか心惹かれていたお寺です。苔で覆われた石段をころばないように登り、高山寺の別院・石水院(国宝)を訪れました。明恵上人が後鳥羽上皇の別院を学問所として賜ったという建物で、座敷からは周囲の山々や木々に囲まれた庭が眺められる心地よく開放的な空間です。
幸い観光客がほとんどいなかったため、床の間に掛けられた明恵上人の樹上座禅像や、上人が可愛がっていた狛犬の愛らしい木彫をゆっくり観ることができました。
石水院の欄間に富岡鉄斎筆「石水院」の額。
板敷の中央に善財童子像が置かれている。祈る形がステキ。
石水院からは杉木立に覆われた、まさに深山幽谷の景色の山道を登り金堂へ。金堂からかなり急な石段を下りて、槙尾の西明寺へ。そして清滝川に沿って橋を渡ると高雄の神護寺入口。自然石の石段約400段を、ハアハア息切れしながら登って重厚な楼門へ。さらに上り詰めると、金堂、五大堂、毘沙門堂、明王堂、大師堂などが立ち並ぶ、広い境内に辿りつきます。
神護寺境内は3,000本の紅葉に囲まれているとのこと、高雄山の中腹に位置するため、京都でもいち早く紅葉の季節を迎え、その季節は満山赤く染まり大変な賑わいだそうです。
今はオフシーズンのせいか混雑もなく、緑のもみじも素敵でしたよ。この日のために少し足腰を鍛えていたお蔭か?挫折せずに素晴らしいお堂を観ることが出来ました。それにしても、汗だっくだくの半日でした。
最終日の朝、京都国立博物館へ。目的は2年前に開館した「平成知新館」。設計は、ニューヨーク近代美術館 新館、東京国立博物館 法隆寺宝物館等々、国内・海外に数々の名美術館・博物館を手がけた谷口吉生です。
三十三間堂に面して新たに設けられた南門から真っ直ぐにのびるアプローチに導かれ、エントランスへ。シンプルで幾何学的な線で構成されたモダニズム建築でありながら、自然石の石垣や障子を思わせる細い柱のガラスなど、和のテイストを感じさせる谷口吉生独特のデザインの粋です。中に入ると3階まで吹き抜けの広々としたエントランス・ホール。展示室は1~3階に13室に分かれていますが、観覧しやすい明解な配置でした。
今回の展示は「丹後の仏教美術」。1階展示室に入ると、千手観音立像(重要文化財・平安時代)をはじめ、阿弥陀如来坐像、大日如来坐像など、京丹後市縁城寺の大きな仏像の数々が厳かに安置され、思わず手を合わせてしまいました。その他2階、3階展示室にも重要文化財を含む多くの仏画、絵巻物などが一堂に集められた圧巻の展示でした。