もうすぐ9月、稲村ガ崎の海も少しずつ秋の気配が・・・。
ニューヨーク郊外に住む小手鞠るいさんから、『カヌーの旅』の思い出が届きました。
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伊藤さんとのもうひとつの出会い---『カヌーの旅』
2013年9月に上梓した『あなたにつながる記憶のすべて』を読んでくださった
あるイラストレーターの方から、こんなおたよりをいただきました。
短編「ふたつの時計」に出てくる画家は、伊藤 正道さんですね。
とってもあったかい絵で、特に男の子の絵がとても印象深かったです。
彼女はそれまで、伊藤さんが亡くなられていたことを ご存じなかったようです。
私の短編を読まれて初めて、お知りになったようです。
つまり、私の短編を読まれるまでは、伊藤さんは彼女にとって、
「生きている人」だったのだなと思うと、不思議な気持ちになりました。
私の短編を読まれずに、ずっと伊藤さんが生きたままでいらしてくださっても
よかったのかもしれない、なんて。
伊藤さんとの出会いについては、「ふたつの時計」の中に
詳しく書いていますが、実はそこには書いていない
「もうひとつの、伊藤さんとの出会い」があります。
それが正真正銘の初めての出会いなのです。
1990年に出版されている『カヌーの旅』という絵本。発行元はウオカーズカンパニー。
この会社は、今はもう存在していませんが、当時、私もこの会社とはおつきあいがあり、
私も林静一さんの絵本の文章を書かせていただいています。
その仕事の打ち合わせをするためにこの会社を訪ねたとき、
「こんな絵本を出したんだよ」と言って手渡されたのが、
伊藤さんの絵本『カヌーの旅』だったのです。
ボクと愛犬ソーヤのカヌーの旅は、空の旅です。
海でも川でもなくて、空。
そこがすごく伊藤さんらしいなと思います。
このカヌーの空の旅は、それから18年後の2008年に出版される
『マフィーくんとジオじいさん ふしぎなぼうし』に
つながっていくものではないかと思います。
また『カヌーの旅』の途中でひょっこり出てくる台詞
---「このあたりはずいぶん木が切られている」。
たった1行に、伊藤さんの優しさがあふれています。
この優しさはのちに「はっぱくん」シリーズに結晶していきます。
伊藤さんのカヌー、今はどのあたりを飛んでいますか?
私もそのうち、仲間に加わらせてね。
小手鞠るい
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*『カヌーの旅』(文・絵=伊藤正道 1990年 ウオーカーズカンパニー)
この絵本は伊藤正道が文・絵ともてがけた最初の絵本です。この世界がその後「セロファニア」などへと広がっていきました。
*『あなたにつながる記憶のすべて』(文=小手鞠るい 2013年 実業之日本社)
正道が亡くなった年の秋に、小手鞠さんが思い出を綴って下さった「ふたつの時計」が、この短編集に掲載されています。
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渋谷西武百貨店で壁画を描く
この写真は伊藤正道が1991年に、渋谷西武のSEED入口の壁に「カヌーの旅」の壁画を描いているところです。
絵の左下片隅に「話の特集 壁新聞40号 提供 シブヤ西武」と書かれています。1965年に創刊して30年位続いた雑誌「話の特集」、懐かしいですね。